1. AIといのち──素朴な疑問から始まる未来の対話
「ねえ、AIって“いのち”を持っているの?」
もし、子どもからこんな問いを投げかけられたら、あなたはどう答えるでしょうか。
笑ってごまかすかもしれないし、逆に胸の奥でドキッとするかもしれません。
2025大阪万博国際大会で登壇した石黒浩氏(大阪大学大学院基礎工学研究科教授(栄誉教授)、2025年日本国際博覧会「いのちの未来」パビリオン・テーマ事業プロデューサー)は、まさにこの「AIといのちの境界線」に光を当てました。
石黒氏が語るのは、テクノロジーの冷たい話ではありません。
それは「人間とは何か?」という根源的な問いを、私たち自身に突きつけてくるような物語です。
また、石黒氏が率いる「いのちの未来」パビリオンでは、最先端のアバターやロボットを通じて、来場者が “人間とは何か” を体感的に考える仕掛けが用意されていました。
つまり、「AIと競う」ではなく「AIと共に生きる」。
そのメッセージは、難しい学術的な話ではなく、訪れた誰もが自分の生活と結びつけられる内容でした。

2. アバター共生社会の実現──身体・時間・空間の制約を超えて
石黒氏の講演テーマは 「アバター共生社会の実現」。
彼が描く未来社会は、SF映画の中だけの夢物語ではなく、すでに研究・実証が進んでいるリアルなビジョンです。
石黒氏によれば、アバターとは単なる「ロボット」や「CGキャラクター」ではありません。
人間の意志を反映し、ときにAI機能を備えた「もうひとつの身体」でもあります。
操作する人間の意思に基づき動く存在だからこそ、障がいのある方や高齢者も含め、誰もが自由に社会活動に参加できる可能性を広げるのです。
さらに、日本政府の「ムーンショット型研究開発プロジェクト」では、2050年までに人々が身体・脳・時間・空間の制約から解放される社会を目指しています。
アバターを使えば、通勤を最小限にし、どこにいても学びや仕事に参加できる。
「労働力不足」という日本の社会課題を解決するだけでなく、人間の能力を拡張し、より豊かな生き方を実現できると石黒氏は語ります。
その言葉は、テクノロジーの話を超えて「社会のあり方」や「人間らしさ」そのものに踏み込むものでした。

3. 「いのちの未来」パビリオン──体験として問いかけるメッセージ
石黒氏の講演の背景には、彼自身がプロデュースを務める 2025年日本国際博覧会「いのちの未来」パビリオン があります。
外観は水に囲まれた黒い建物。その中では、アバターやロボットが来場者をナビゲートしながら、人間とAIの共生をテーマにした壮大な体験が展開されます。
このパビリオンの特徴は、「知識を得る場所」ではなく “体験を通じて考える場所” であること。
来場者は、未来の生活シーンや、数十年・数百年先の人間社会を描いたドラマ仕立ての展示を体験しながら、
「人間とは何か?」
「AIに“いのち”を託すことはできるのか?」
といった問いに自然と向き合うことになります。
石黒氏が講演で語った「アバター共生社会のビジョン」は、このパビリオンの体験と見事に重なります。
それは テクノロジーのショーケースではなく、人類の未来そのものを考える装置。
まさに「AIと共に生きる」ことを、子どもから大人まで誰もが肌で感じられる空間なのです。

4. 私自身の体験──登壇者を案内して感じた「未来への入口」
私は2025年大阪万博国際大会の当日、主催団体である一般社団法人国際メタバース協会の営業統括(CSO)として、石黒浩氏がプロデュースする「いのちの未来」パビリオンにて、海外からの登壇者を案内させていただきました。
館内では、アバター・ロボットが来場者を優しくナビゲートし、子どもから大人までが一緒に未来の物語を体感できる仕掛けが用意されていました。
正直に言えば、私自身も「アバター」と聞くと、ゲームやメタバース空間だけの存在を思い浮かべていたのです。
ところが、石黒氏のビジョンに触れ、実際に「いのちの未来」パビリオンを体験してみると、その考えは大きく覆されました。
アバターは、現実世界で人と融合し、記憶を残すことや、障害を補うこと、さらには人間にはない能力を拡張することまで可能にし得るのです。
もちろん、それを受け入れるかどうかは一人ひとりの選択に委ねられています。
しかし確かにそこには、人間とAIが共存する新しい社会の姿がありました。
私が案内した登壇者の中には、感動のあまり涙を流された方もいました。
「ストーリー性のある素晴らしいパビリオンだった」「未来について深く考えるきっかけになった」──そんな声を数多くいただいたのです。
この体験を通じて、私自身も強く考えさせられました。
そして改めて、こうした貴重な機会をいただけたことに心から感謝しています。
5. まとめ──AIと人間が共に描く未来へ
2025大阪万博国際大会での石黒浩氏の登壇、そして「いのちの未来」パビリオンの体験を通じて、私たちが改めて向き合ったのは、単なるテクノロジーの進歩ではなく「人間とは何か」という問いでした。
AIやアバターは、冷たい機械ではなく、人間の可能性を拡張し、誰もが新しい形で社会に参加できる未来を提示しています。
同時に、その未来をどう受け入れ、どんな価値観を選び取るのかは、私たち一人ひとりに委ねられています。
国際大会のステージからパビリオン体験に至るまで、一貫して伝えられていたのは「AIと競うのではなく、AIと共に生きる」というビジョンでした。
このテーマは決して遠い未来の話ではありません。私たちが日々の暮らしの中で選び取る行動や判断が、AIと人間が共に歩む社会を形づくっていきます。
未来は、すでに始まっているのです。
コメント